幽霊にはこの世に未練や怨みを残したり自縛され動けなくなった為にこの世に残ったモノ達がいる。
それはそれでかなりの数なのだが、霊感がある人が存在を感じたり、実際に目撃してしまう霊の正体は生きている時、もしくは死ぬ瞬間に残した残留思念なのだと聞いた事がある。
Aさんと出会った際、
幽霊なんて掃いて捨てるほど何処にでも溢れてるでしょうが?
と言われて行動を共にしていると確かに霊は何処にでもいた。
街の至る所、ショッピングセンター、公園、コンビニ、道路、川辺など様々な場所に霊が存在している事に気付いた。
そして、それは会社や学校、自宅にも当てはまってしまう。
普通に考えれば家の各部屋に1体は霊がいるというのが当たり前なのだから。
そして、それらの場合、どんな除霊をしても決して祓う事も出来ないし居なくなる事も無い。
それらの殆どはあくまで残留思念としてその場に刻み込まれているだけで霊としての意思も実体も持たないのだから。
ただその場に固定されているだけ。
動く事も無ければ何もする事も出来ない。
だから祓う必要も無ければ怖がる必要も無いのだ。
そして、残留思念としてその場に刻み付けられた霊の姿を見ることが出来るのは相当なレベルの霊感、いや霊的な能力を持っている人だけだそうだ。
Aさんなどは常に視えているらしいが俺にはAさんや姫ちゃんなどと行動を共にしている時やその後しばらくの間しか視えないのだがいつもAさんから
先住人の等身大ポスターくらいに考えればいいんですよ・・・。
と言われてからは特に気にもならなくなった。
先にも書いたが普通程度に霊感が強い程度の者には絶対に視えないであろう残留思念の霊の姿。
修行をしたり場数を踏んだり、先天的に異様に霊感が強い者にしか視えるはずは無いのだ。
それでもそれを知らず勘違いしてしまう方も存在する様だ。
横田さんは昔から他の人には視えないモノがずっと視えていた。
両親や兄妹、そして友達には視えないモノが常に視えていたというのだ。
よく霊感が強い者は心霊スポットには近づかない場合が多いと思うのだが彼の場合は違っていた。
それは幼い頃からずっと視てきた霊というモノが実は恐ろしくは無いものだと知っていたから。
確かに姿は視えるが動く事も稀で基本的にはその場に立っているだけ。
何もしてこないのであれば霊というのは恐れるほどのモノでもなくある意味では無視していても、さして問題の無いモノだった。
だから彼は友人達に誘われれば気軽に心霊スポットに同行し、その場を案内する様にしながら霊とは恐れるに足らない存在だと力説してきた。
しかし、はっきり言ってしまえば、彼はそれまで単に運が良かっただけ・・・・。
彼程度の霊力では視えていたのは残留思念の霊ではなく、何かの理由でこの世に残されていた霊だったはずなのだから。
そして、確かに霊の中の9割以上は悪意を持たず恨みの念も持たず、ただその場にいるだけの霊なのだから、彼がそんな勘違いをしてしまったのも仕方のない事かもしれない。
動かない霊は、ただその場に張り付けられ何も出来ない影の様な存在。
動く霊は、逆に危険で注意しなくてはいけない霊。
そんな判断をしていたのだという。
彼がいつも通勤する際に利用している駅があった。
そして、その駅のホームにはいつも1人の女性が立っていた。
しかも白線内に堂々と・・・。
ただ、その姿はどうやら彼以外には誰にも視えていなかったらしく彼はかなり以前からそれが女の霊なのだと確信していた。
そして、いつも同じ場所に立ちピクリとも動かないその女の霊を彼はただその場所に張り付けられた影の様な存在の霊。
つまり残留思念が留まって視えている霊なのだと確信していたのだという。
ただ、彼の性格的には相手がどれだけ安全で人畜無害な存在の霊だとしても自ら近づいていく事などするはずもなかった。
ただ、その日は仕事の帰りに飲みに誘われかなり酔っぱらった状態で最終電車に乗り込みそのホームで降りてしまったそうだ。
あっ、またあの女の霊が立っている・・・・。
いつもならばそう思っても見て見ぬフリを決め込むだけの彼だったが、その時は何故か酔っぱらい上機嫌だった彼は、ついその女の霊に近づいていってちょっかいを出してみたくなった。
彼にしてみれば動かないマネキンにふざけて声を掛ける程度の気持ちだったのだろう。
よっ、いつもご苦労さん!
いつも此処に立っているのも退屈でしょ?
でも、動けないんだから頑張って!
そんな言葉をかけたのだという。
そこからの全ては彼の想定外の出来事だった。
動かない筈の女は、クルリと彼の方を違和感のある動きで振り向くと
やっぱり視えてたよね・・・・。
それにちゃんと動けるのよ・・・。
そう言って彼の手を取ってホームからレールの上へ下りようとする。
凄まじい力で引っ張られた彼は大きな悲鳴をあげ駆け付けた駅員によって何とかホームへと引き上げられたが5人掛かりの駅員の力でギリギリ何とかホームへ引き上げる事が出来たほどの凄まじい力だった。
そして、彼がホーむへ引き上げられてから1分も経たないうちに貨物列車が猛スピードで彼がつい今しがたまでいたレールの上を通過していったという。
彼はすっかり酔いも醒めてしまい、それから駅員から事情を聴かれる事になるが彼が答えた女の霊に引き込まれたという話に対して駅員たちはまるで知っていたかのように真剣に聞いてくれたという。
彼はその時、命を落とす事も無くそれ以後、霊障に苦しめられる事も無かったが、その件があって以来、その駅のホームは自殺者が多いホームとして有名になってしまった。
そして、ある日、彼は例の女の霊が嬉々とした顔で知らない男性の手を引いてホームを通過する貨物列車に飛び込む瞬間を目撃してしまい以後、その駅は使わないようにして車での通勤に変えたそうだ。
ずっとホームで動かず立っているだけの女の霊を目覚めさせてしまったのはきっと僕なんです。
あの女の霊は自分の姿を視える誰かが現れるのをじっと動かず待ち続けていたんだと思います。
道連れにする相手を探す為に。
僕は本当にとんでもない事をしてしまったんだと後悔しています。
そして、僕ももう駄目なのかもしれません。
最近は車の運転をしていても道に立っているあの女の姿が頻繁に視えてしまうんです。
そう言って唇を噛みしめる彼だが、今となってはその駅の自殺の連鎖はもう止めようが無いのかもしれない。
実話怪談
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