怪談

【引きずり】 その⑦ 八木商店著

「え?」

「今でも苛めてた人たちは御墓参りされてるんですよね……。

それって息子さんの祟りを恐れてじゃありませんか?

山下が中田の存在を恐れ、森、関が中田に犯した行為を恐れたように。息子さんは亡くなって、苛めてた人たちの人生を呪縛したんじゃあ……」

「白石、そういう考えはよしなさい!

皆んな深く反省して心改めたんだよ。君もそうじゃないか!」

「中田は本当におれたちを許してくれると思いますか?」

「ああ。先生はそう思う」

「じゃあ、なぜ森も関も中田が自殺した踏み切りで死んだんです!」

「偶然だよ」

「先生! 本当にそう思いますか!」

「ああ。中田が自殺したあの踏み切りは昔から事故が多いことで有名だ。亡くなった人も結構いる」

「事故というよりも、あそこは昔から自殺が多いことで有名じゃないですか。自殺の名所ですよ」

「確かに自殺もあった。でも君が思ってるほど多くはないよ」

「そうでしょうか。今年だけでもあそこで、もう四人も死んでるんですよ。しかもその四人は全員顔見知りじゃないですか!」

「中田は遺書を残してたことからも明らかに自殺だ。だが、他の三人は遺書らしき物を何一つ残しちゃいない。実際のところあの三人は自殺とは言いきれんだろ!」

「じゃあ、三人があそこで死んだのは、先生が言うように単なる事故で、偶然にもたまたま同じ場所だったって言うんですか」

「ああ。偶然だよ。たまたま同じ場所で連続して起きた事故に過ぎないんだよ」

「おれは納得できませんよ!

あの三人が死んだのは自殺です! いや、中田の祟りであの踏み切りに引きずり込まれたんですよ!」

「落ち着け、白石!

森は君に自殺をほのめかしてたわけじゃないんだろ」

「ええ。自殺なんて、あいつは死ぬことを恐れてましたからね。そんなこと考えてもいませんよ」

「な、森は自殺なんておかしな考えは持ってなかった。森の死は事故だったんだよ。関もそう。君は関から何か自殺をほのめかすようなことを聞いてたのか?」

「山下の後を追うように森が死んで、関は次は自分の番だと怯えてました。あいつも死ぬことをすごく恐れてました。おれにはそんな関がすぐそこに迫った死を怯えながら待っているようにしか見えなかった。

関は、あいつは自分ももうすぐあいつらとと同じように死ぬって知ってたんじゃないかな? なんかそう思えるんです」

「友人が相次いで同じ場所で事故で亡くなれば、誰でもそんな被害妄想に駆られるよ。ところで白石、君はどうだったんだ? 君は関のような被害妄想はなかったのか」

「おれですか……。

おれも一緒です。だからこうして今もビクビクしてるんじゃないですか」

「君にも死がすぐそこに迫ってるように感じるのか?」

「わかりません。でも関は先週死んだんですよ。そう考えると順番からして今度はおれかなって。関は森が亡くなって二週間後に死にました。一週間後におれが死んでなければいいけど……。

関が亡くなる前日、夜中に電話があって話しました。そのとき、あいつ奇妙なことを言いました」

「何て?」

「あいつの声は震えてました。夜中の二時を過ぎてたから、ちょっと薄気味悪かったな。

あいつ、『化け猫って山下はいないって言ったよな』って訊いてきたんです。おれはそうだと言いました。すると、『山下は猫を殺してたから殺されたんじゃないか』って。おれは関の言ってる意味がわからなかったから訊き返したんです。

あいつは言いました。『殺された猫と中田の祟りで山下は死んだんだ。森は、あいつは猫は殺してないから中田の祟りだろうな』って。それで、『中田は山下に殺された猫たちと合体して化け猫になったんじゃないかと思うんだけど、白石、おまえどう思う?』って。

そんなことはないと思うと応えましたけど、本当はそんなことも有り得るのかもしれないと思いました。

先生はどう思います?」

「死んだ物が怨んでこの世に現れて人を呪う。そんな話は聞いたことがあるが」

「関と電話して何時間後かに、あいつは踏み切りに飛び込んだんです。

快速電車にバラバラにされたんですよ。

キックボクシングであんなに身体鍛えてたのに。あいつの身体は簡単にバラバラにされてしまったんですもんね……。

おれもあいつらのように、バラバラにされるんでしょうか?」

「さっきから何度も言ってるように、白石、君は大丈夫だ。そう思い込むな。

ところで、君は普段あの踏み切りを通ることがあるのか?」

「いいえ。場所は知ってるけど、その踏み切りを見たことはありません。森と関はジムの通い道にありました。中田と山下は通学路にあったはずです」

「なら平気じゃないか! 君はどうやら中田をはじめ四人が亡くなった踏み切りで、自分も亡くなるんじゃないかと思ってるようだけど、そこを利用してるわけじゃないんだからね。亡くなった四人のように、あそこで君が事故に巻き込まれることはないよ」

「そうかなぁ……?」

「まあ、なんだな、先生がいくら君に話したところで君は納得できないようだから、一度霊能者の先生にみてもらって山下、森、関の三人の原因不明の死が中田によるものなのか確かめてもらうのもいいかもな。

先生から君に霊能者を紹介するのも教育者として問題があるのかもしれんが、精神科医や、カウセラーにみてもらうよりは今の君には納得してもらえるんじゃないかと思う」

「先生は霊能者にみてもらったことありますか?」

 

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八木商店

コメディー、ファンタジー、ミステリー、怪談といった、日常にふと現れる非日常をメインに創作小説を描いてます。 現在、来年出版の実話怪談を執筆しております。 2020年(株)平成プロジェクト主催「美濃・飛騨から世界へ! 映像企画」にて八木商店著【男神】入選。入選後、YouTube朗読で人気を博し、2023年映画化決定。2024年、八木商店著【男神】が(株)平成プロジェクトにより、愛知県日進市と、東京のスタジオにて撮影開始。いよいよ、世界に向けての映画化撮影がスタートします。どうぞ皆様からの応援よろしくお願い致します。 現在、当サイトにて掲載中の【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】は、2001年に【 菩薩(ボーディサットゥバ) あなたは行をしてますか 】のタイトルで『角川書店主催、第9回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過、その後、アレンジを加え、タイトルも【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】に改め、エブリスタ小説大賞2020『竹書房 最恐小説大賞』にて最恐長編賞、優秀作品に選ばれました。かなりの長編作品ですので、お時間ある方はお付き合いください。 また、同じく現在掲載中の【 一戸建て 】は、2004年『角川書店主催、第11回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過した作品です。

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