都市伝説

 【この感動を伝えたい】 その③ 八木商店著

何を言ってるんだ? 坂上が口を開く度に、心の中でそう叫んだ。

俺は愛ちゃんって女と付き合ったことは一度だってない。それは坂上もよく知っているはずだと思ってたのに。何か坂上に裏切られたような淋しいものを感じた。俺が愛ちゃんと付き合っていたと断言する坂上の当たり前の話し振りに、俺は自分の記憶がおかしくなったんじゃないかとさえ思った。

まさか、俺は自分でも知らないうちに、香織の知り合いの愛ちゃんと交際していたんじゃないだろうな。

そう思った途端に強烈な不安感に襲われた。

「ちょっと、質問」

「何だ」

記憶がままならない俺は坂上に確認することにした。

「彼女いない暦半年の俺が、いつ頃から愛ちゃんと付き合いはじめたのか教えてくれ?」

「多分一ヶ月くらい前じゃないか? おまえが香織に誰か女友達紹介してくれって頼んだことがあっただろ」

「ああ。おまえが彼女見せてやるって蒲田で飲んだときだろ」

確かに坂上から彼女だと香織を紹介してもらったとき、俺は初対面にも関わらず香織に女友達を紹介して欲しいと頼んだ。

「それで、その一週間くらい後で合コンしただろ」

勿論憶えている。俺はあの日期待に胸を膨らませてそのコンパに臨んだ。しかし、期待とは裏腹に香織が連れてきた三人の女は、どいつもこいつも俺の好みじゃなかった。

「あの日だよ。山路と愛ちゃんが出逢ったのは」

ええ!

雷が耳元に落ちたのかと思うほど強い衝撃が鼓膜を突いた。

嘘だ!

俺、あの日のコンパで逢った女の顔なんて全然憶えてないぞ! なのに、何でその中にいた女と付き合うことができるんだ!

瞬時に恐怖に密封された俺は、必死にあの日きていた女たちの顔を思いだそうとした。しかし、いくら思いだそうとしても、関心が全くなかった女の顔を再生することはできなかった。

 

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八木商店

コメディー、ファンタジー、ミステリー、怪談といった、日常にふと現れる非日常をメインに創作小説を描いてます。 現在、来年出版の実話怪談を執筆しております。 2020年(株)平成プロジェクト主催「美濃・飛騨から世界へ! 映像企画」にて八木商店著【男神】入選。入選後、YouTube朗読で人気を博し、2023年映画化決定。2024年、八木商店著【男神】が(株)平成プロジェクトにより、愛知県日進市と、東京のスタジオにて撮影開始。いよいよ、世界に向けての映画化撮影がスタートします。どうぞ皆様からの応援よろしくお願い致します。 現在、当サイトにて掲載中の【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】は、2001年に【 菩薩(ボーディサットゥバ) あなたは行をしてますか 】のタイトルで『角川書店主催、第9回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過、その後、アレンジを加え、タイトルも【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】に改め、エブリスタ小説大賞2020『竹書房 最恐小説大賞』にて最恐長編賞、優秀作品に選ばれました。かなりの長編作品ですので、お時間ある方はお付き合いください。 また、同じく現在掲載中の【 一戸建て 】は、2004年『角川書店主催、第11回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過した作品です。

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