何を言ってるんだ? 坂上が口を開く度に、心の中でそう叫んだ。
俺は愛ちゃんって女と付き合ったことは一度だってない。それは坂上もよく知っているはずだと思ってたのに。何か坂上に裏切られたような淋しいものを感じた。俺が愛ちゃんと付き合っていたと断言する坂上の当たり前の話し振りに、俺は自分の記憶がおかしくなったんじゃないかとさえ思った。
まさか、俺は自分でも知らないうちに、香織の知り合いの愛ちゃんと交際していたんじゃないだろうな。
そう思った途端に強烈な不安感に襲われた。
「ちょっと、質問」
「何だ」
記憶がままならない俺は坂上に確認することにした。
「彼女いない暦半年の俺が、いつ頃から愛ちゃんと付き合いはじめたのか教えてくれ?」
「多分一ヶ月くらい前じゃないか? おまえが香織に誰か女友達紹介してくれって頼んだことがあっただろ」
「ああ。おまえが彼女見せてやるって蒲田で飲んだときだろ」
確かに坂上から彼女だと香織を紹介してもらったとき、俺は初対面にも関わらず香織に女友達を紹介して欲しいと頼んだ。
「それで、その一週間くらい後で合コンしただろ」
勿論憶えている。俺はあの日期待に胸を膨らませてそのコンパに臨んだ。しかし、期待とは裏腹に香織が連れてきた三人の女は、どいつもこいつも俺の好みじゃなかった。
「あの日だよ。山路と愛ちゃんが出逢ったのは」
ええ!
雷が耳元に落ちたのかと思うほど強い衝撃が鼓膜を突いた。
嘘だ!
俺、あの日のコンパで逢った女の顔なんて全然憶えてないぞ! なのに、何でその中にいた女と付き合うことができるんだ!
瞬時に恐怖に密封された俺は、必死にあの日きていた女たちの顔を思いだそうとした。しかし、いくら思いだそうとしても、関心が全くなかった女の顔を再生することはできなかった。
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