都市伝説

 【この感動を伝えたい】 その④ 八木商店著

「ところで、山路」

坂上の声に俺は意識を取り戻した。

「な、何」

「何でそんなこと俺になんか訊くんだ?」

「身に覚えのない愛ちゃんとの出逢いを知りたくて」

俺は躊躇いもなく答えた。

「何言ってんの? なんかそれ、愛ちゃん、まるで幽霊扱いだな」

確かにそうだ。実際俺はキツネに摘ままれた感触に恐怖しているのだから。

「突然電話で愛ちゃんの話されたんだからな。愛ちゃんでも幽霊でも同じことだ」

「おいおい、そんなこと愛ちゃんに知れたら、おまえ本当に呪い殺されるぞ」

親友とまではいかないが、とりあえず友人の坂上は俺の身を案じて、心配なんかしてくれてるみたいだ。が、俺にしてみれば余計なお世話だ。

「いや、その心配はない。愛ちゃんは勘違いしてるみたいだからな。俺と他の誰かと」

「勘違いだなんて、愛ちゃんに失礼だぞ。愛ちゃん、本気でおまえのこと好きだったのに。やっぱそうか。おまえはただの遊びだったんだな」

と、とんでもない!

遊びも何も、俺はその愛ちゃんなんて記憶にないんだぞ! だから当然付き合ってた訳ないだろ!

と、声に出して言いたかったが、また訳のわからない返答がくるのを恐れて何も言わないでいた。

「あの席で隣りにいた愛ちゃんと話してたじゃないか。初めて逢った二人なのに、俺にはもう随分前からの知り合いのように見えてたぞ。なんかおまえら二人の間には良い雰囲気が漂ってた」

うっ、寒っ!

俺と愛ちゃんを一まとめにしておまえら二人と言われるのに、強い抵抗を感じて肘から先の腕に鳥肌が一斉に立った。

コンパの席で俺の隣りに座ってずっと話していた女。その人が人騒がせな愛ちゃんってことか…。俺は記憶を辿った。

あの日の光景が薄っすらと見え隠れしはじめたときだった。突然或る女の顔がクリアヴィジョンで鮮明に霧の掛かった脳裏に現れた。

「ええ! ま、まさか、愛ちゃんって、あの人のことかーっ!」

悲鳴を上げて、俺はその場に膝から崩れ落ちそうになった。

「ああ、め、目眩が」

心臓に杭を打ち込まれたような激痛が走った。なんてこった!

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八木商店

コメディー、ファンタジー、ミステリー、怪談といった、日常にふと現れる非日常をメインに創作小説を描いてます。 現在、来年出版の実話怪談を執筆しております。 2020年(株)平成プロジェクト主催「美濃・飛騨から世界へ! 映像企画」にて八木商店著【男神】入選。入選後、YouTube朗読で人気を博し、2023年映画化決定。2024年、八木商店著【男神】が(株)平成プロジェクトにより、愛知県日進市と、東京のスタジオにて撮影開始。いよいよ、世界に向けての映画化撮影がスタートします。どうぞ皆様からの応援よろしくお願い致します。 現在、当サイトにて掲載中の【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】は、2001年に【 菩薩(ボーディサットゥバ) あなたは行をしてますか 】のタイトルで『角川書店主催、第9回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過、その後、アレンジを加え、タイトルも【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】に改め、エブリスタ小説大賞2020『竹書房 最恐小説大賞』にて最恐長編賞、優秀作品に選ばれました。かなりの長編作品ですので、お時間ある方はお付き合いください。 また、同じく現在掲載中の【 一戸建て 】は、2004年『角川書店主催、第11回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過した作品です。

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