怪談

Nさんの体験談

四十代のNさんは、子供の頃に経験した不思議な出来事を語ってくれた。彼女がまだ小学生だったころ、両親が彼女を遊園地に連れて行った。コーヒーカップやメリーゴーランドで楽しんだ後、両親に手を引かれて園内を散策していたとき、お化け屋敷の前に差し掛かった。
その建物は古びた外観で、入口には怖い顔の幽霊の人形が飾ってあった。Nさんが興味を持ったのは、係り員の隣に設置されていたモニターだった。その画面には、お化け屋敷の内部が映し出されていた。最初は、中で驚く客の様子を外から観察する仕組みだと思ったが、そうではなかった。
モニターの下には、赤い長いレバーが取り付けられていた。係り員がすばやく手を伸ばし、そのレバーをガチャガチャと横に動かすと、モニター上で布切れが舞い上がり、内部を歩いていたカップルが驚く様子が映された。係り員と周囲の人々は笑い声を上げた。
このレバーで、中の客を驚かせてその反応を楽しむ仕掛けだと理解したNさんは、両親からレバーを使ってみるように促された。しかし、心優しいNさんはためらった。見知らぬ人を驚かせることに抵抗を感じたからだ。
その間にも、モニターに映るカップルが何かに驚いて通り過ぎていった。彼女はただその様子を眺めているしかなかった。やがて、そのカップルがモニターの隣の出口から出てきた。
「あ、お嬢ちゃんか。あんなに布を激しく動かしたら怖くて進めなくなるよ」と、男性が苦笑いで言った。しかし、Nさんは何もしていない。係り員も、両親も、誰もレバーを動かしていない。さらに、モニター上では布は静かに横たわっていた。
何か言おうとしたが、そのカップルはすでに他のアトラクションに向かっていった。呆然とするNさんを見て、両親は彼女が飽きたのかと思い、他のアトラクションに行こうと手を引いた。
そのとき、Nさんがお化け屋敷を振り返ると、レバーを楽しげに動かしている小さな女の子がいた。しかし、その子には周囲の人々が気づいていないようだった。
「大人になってから知ったんですが、その遊園地のお化け屋敷は出る建物だったんです。それも、建物の中ではなく、前に立っているという話でした。私が見たのは、それかもしれません」とNさんは語った。今でもその場所を通ることがあるが、二度と近づきたくないと言っていた。

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