お知らせ

『㥯(オン)すぐそこにある闇』第11節-3

相手は複数か…。まぁ、暗くて狭い廊下だからやるには関係ないさ。先手必勝、ドアを開けた途端に右ストレートをお見舞いしてやる!

 

心の中で大きく気合を入れ、左手で一気にドアを開くと同時にパンチを繰り出した。しかし放たれた右ストレートは綺麗に空を切った。

 

「あれっ?」

 

誰もいない。何? どうなってんだ?

 

加藤は廊下に出て辺りを見渡した。

 

変だなぁ? どこにも誰もいない。俺の気のせいだったのかなぁ?

 

加藤はもう一度廊下を確認してから部屋に戻り、後ろ手にドアを閉めようとした。するとドアがもうすぐ閉まるというところで、外から部屋の中に強い風が吹き込んできた。風がドアの脇に立て掛けてある傘を揺らし、ガサガサガサッ! ゴトゴトッ! と音を立ててた。

 

「あっ!」

 

何だよ。犯人はコイツかよ。俺も相当神経質だよな。

 

先程から加藤を苛立たせた物音の正体が風だとわかると、加藤は安心して布団に横になった。

 

ガサガサッ! スーッ! スーッ! スーッ!

 

横になった後も不快な音はつづいた。しかし、加藤がそれに神経を注ぐことはもうなかった。彼は程なく夢の中へ落ちていった。

 

ガサガサッ! スーッ!

 

「ここでええんじゃ。お父さんが窓開けて家の中に入れてくれたろが」

 

「やっとお父さんに逢えたなぁ!」

 

「もうずぅっとここにおってかまんのやろ?」

 

「ほうよ。ここがぼくらの家になったんじゃ! ずうっとおってかまんぞ!」

 

「他の皆んなもお父さんやお母さんの家に入れてもろたかなぁ?」

 

水野たち三人は無心で無枯村に急いだ。闇に浮かぶメロディーライン。ハンドルを握る手に力が入る。ライトが行き届く先はまだまだ闇に覆われている。佐田岬を西へ走りはじめて既に一時間が経とうとしていたが、無枯村に入る脇道が見つからない。

 

「なんだよっ! すぐ近くまできてるはずなのにどこなんだ!」

 

不安と焦りで水野は冷静さを失っていた。その姿に由香と小山も一層不安になった。

 

「絶対にこの辺りなんだけどなぁ! 畜生っ」

 

道路標識を探して闇夜に目をキョロキョロさせる。

 

「本当にこの道であってるの?」

 

不安に駆られた由香が声を漏らした。

 

「ここが一本道なことくらい知ってるだろっ!」

 

水野は小山がいることも忘れて声を荒立てた。三人は更に先へと車を走らせた。すると、100メートルほど前方に、停車した数台の車のハザードランプの点灯が見えた。

 

「あれ、うちの部員たちじゃない!」

 

小山が叫んだ。

 

水野は道路脇に車を停めると、先頭に停まっている車中を覗き込んだ。

 

「先輩!」

 

小山の言ったとおりだった、先頭の車は先に出発した四年生たちだった。水野は普段は疎ましいとしか思えなかった大沢だが、そのときは逢えたことに安らぎを覚えた。

 

「先輩! 入口がわかりません!」

 

水野は大沢に縋り付いた。

 

「消えちまったよ。入口が」

 

大沢のうろたえる声が闇に吸われた。

 

 

  • 記事を書いた作家
  • 作家の新着記事
八木商店

コメディー、ファンタジー、ミステリー、怪談といった、日常にふと現れる非日常をメインに創作小説を描いてます。 現在、来年出版の実話怪談を執筆しております。 2020年(株)平成プロジェクト主催「美濃・飛騨から世界へ! 映像企画」にて八木商店著【男神】入選。入選後、YouTube朗読で人気を博し、2023年映画化決定。2024年、八木商店著【男神】が(株)平成プロジェクトにより、愛知県日進市と、東京のスタジオにて撮影開始。いよいよ、世界に向けての映画化撮影がスタートします。どうぞ皆様からの応援よろしくお願い致します。 現在、当サイトにて掲載中の【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】は、2001年に【 菩薩(ボーディサットゥバ) あなたは行をしてますか 】のタイトルで『角川書店主催、第9回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過、その後、アレンジを加え、タイトルも【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】に改め、エブリスタ小説大賞2020『竹書房 最恐小説大賞』にて最恐長編賞、優秀作品に選ばれました。かなりの長編作品ですので、お時間ある方はお付き合いください。 また、同じく現在掲載中の【 一戸建て 】は、2004年『角川書店主催、第11回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過した作品です。

  1. 【この感動を伝えたい】 その⑱・完結 八木商店著

  2. 【この感動を伝えたい】 その⑰ 八木商店著

  3. 【この感動を伝えたい】 その⑯ 八木商店著

コメント

この記事へのコメントはありません。

PAGE TOP
Translate »