「合宿前に加藤が友達の話をしたとき、アイツも俺たちに訊いただろ? ここにあるもんはなんもうつさんといてくださいねって、どういう意味なのか。そのとき皆移動のことだと思ってしまったよな。だから俺はあの村の自然にある物には、極力触れないようにしてたんだ。それは加藤から祓橋の傍で友達の最期の話を聞いたから余計なんだけどな」
井上は言った。
「でも、おまえは写真に写ろうとしなかっただろ。俺が訊いたらノー! って嫌がったもんな。おまえひょっとしてこのこと、つまりうつさんの本当の意味も知ってたんじゃないのか?」
横山が睨みつけて訊ねた。
「いいや、全然知らなかった」
「じゃあなんで写真に写ろうとしなかったんだ?」
「昔から嫌いなんだ。写真に撮られるのが。ただそれだけだ」
横山は井上の説明に怪訝な態度を取ったが気を鎮めた。今となってはもうそんなことでことを荒立てても何の解決にも繋がらなかった。
「もし写真を撮らなかったら、皆こんな風にならなくて済んだのかなぁ?」
井上と横山を余所に、佐々木は一連の経緯を考えていた。
「なんで写真なんて撮ったんだろっ!」
横山は自分の愚行を恨み、やり場のない怒りを吐き捨てるように叫んだ。
「おまえが向井の挑発に乗ったからだろ!」
井上が咎めるように言った。
「いや、ちがう! 横山が撮ろうっていったのはこの写真じゃない! あのときはただ風景をバックに、心霊写真が撮れるかどうか実験で数枚撮っただけだったはずだ。子供たちはいなかっただろ」
佐々木が言った。
「そうだ! 大沢が撮ろうっていったんだ! 思い出したぞ! あれは確か子供たちが一緒に撮りたいって大沢に頼んだんだ。確かそうだよ。それで俺を呼んでカメラ持ってないかって訊いたんだ」
井上はそのときのことを思い出して言った。
「ってことは子供たちは、こうなることを知っていて主将の大沢に迫ったのか!」
横山が怯えた顔で言った。
「これを狙ってたんだ」
佐々木がため息と同時に言った。
「あの温泉で子供たちがいってただろ。祓橋の向こうには行けないって」
井上が思い出して言った。
「ああ」
「あの川、佐々木! 祓橋を越えた辺りでおまえも子供たちが俺たちのほうを見てたのを憶えてるだろ?」
井上は訊ねた。
「ああ、それが?」
「子供たちって、橋の向こう側にいたか? つまり無枯村の外側」
「多分、橋の手前だったと思う」
「橋の手前? それって橋の内側、無枯村に入ったところってことか?」
「ああ」
「やっぱりな」
「何が?」
「子供たちは禊川を越えることはできないんだよ。子供の幽霊はあの川で清められて流されてしまうことを恐れたんだ。だから写真に、ネガとかデジカメのデータに身体を移して村から出ようとしたんだよ! あの石畳の祓橋だって奇妙だったろ? なんでわざわざ川の底に敷いてたんだ? あれは意図的に村から出る観光客を禊川の流れに潜らせるためだったんだよ。観光客は当然、あの村の外部の人間だ。それに観光できたなら、写真の一枚や二枚記念に撮るだろう。民宿のおやじは客は年寄り夫婦ばかりだといった。子供たちはそんな年寄りに近づいて撮影を願ったにちがいない」
「しかし、何故子供たち、いや子供の亡霊たちはあの村から外に出たがったんだ?」
「わからん」
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