怪談

【引きずり】 その⑧ 八木商店著

「息子が亡くなったときにな……。

どうしてもあの世に一人で旅立った息子が心配で堪らなくなってね。何度か御世話になったことがあるよ」

「おれは今までそんな人に逢ったことないですよ。テレビで観たことはあるけど」

「最近テレビにああいう人たちよく出てるからなあ……。

実は、先生が相談した霊能者の先生も最近テレビに出てるそうなんだ。相原龍光という霊能者だけど、知ってるか?」

「あ、その人なら昨日もテレビに出てましたよ。有名な霊能者ですよね!」

「そうか。先生は龍光先生しか知らないけど、どうだ相談してみるか?」

「はい!」

「家に帰れば連絡先がわかると思うが、君にその気があるなら頼んでみよう」

「宜しくお願いします!」

 

佐川が家庭訪問してくれた一週間後、新宿のホテルの一室でおれは相原龍光先生に逢うことになった。ちょっとヤクザ風のお付きの人に案内されて、一五階の角部屋に通され、そこで龍光先生と二人で話した。

間近で見る先生。目尻の皺と垂れた頬の具合はうちの父親みたいだ。年齢も同じくらいで四五、六歳ってところだろうか。

緊張するおれに、先生は優しく微笑みかけてくれた。すると途端におれは今自分自身を苦しめてる悩みのすべてを話しはじめていた。

自分でもどうしてそんなにすらすら話せるのか不思議でならなかった。一気に話したものだから支離滅裂だったけど、龍光先生はそのあいだずっと目を閉じて、左手に持った数珠の一つ一つの玉を、右の指で摘み上げるような仕種をとっていた。

「龍光先生! どうでしょう。ぼくは苛めてた中田君に呪われてるんでしょうか!」

おれは興奮のあまり、つい大きな声を出した。

「ちょ、ちょっと待ってね」

先生はおれの質問を優しく遮って瞑想に入った。そして五分くらいして、ゆっくり話しはじめた。

「白石さんは中田さんを苛めてたのですか?」

「いいえ。ぼくは苛めてたつもりはありません」

「そうですか……」

そう言うと先生は再び目を閉じて、数珠の玉を撫でながらブツブツ口を動かしはじめた。

そして突然目を開けて訊ねてきた。

「そのお、御友達の方ですが、えーと、最初に亡くなられた山下さんでしたっけ?」

「はい」

「この方は自殺されてますね……」

「遺書はなかったんです」

「ええ。遺書は残してません」

「やっぱり中田君の祟りで自殺させられたんでしょうか?」

先生はおれの質問を聞いてはいたものの、視線はおれの頭の上に向けて別の何者かと会話してるように見えた。

「いいえ。この方、中田さんは呪ったりしてませんよ。山下さんは御自分の意志で亡くなられたようですね」

「ええ!」

先生の説明におれは驚きを隠せなかった。

「な、なぜ山下君は自殺を。……死にたかったんですか!」

「いいえ。この方は死にたいわけではなかったようです。同時に生きていたいわけでもなかったようですね」

「生きていたくなかったって、それどういうことですか?」

「今のままでいたかったようですね。この方はお仲間の方々をそれはそれは大切に思われていたようです。将来、離れ離れになるのが嫌だったんでしょう。それで今のままで永遠に自分の時間をストップさせようと考えたみたいですね」

「死んだ時点で時間はストップするものなんですか?」

「いいえ。時間は止まったりはしませんよ。この方は死ねばその時点で時間が止まってくれると思い込んでたようですね。高校生にしてはちょっと幼稚な発想をされる方だったようです」

「中田君が自殺して、その後を追うように山下君も自殺しました。そして森君、関君も皆んな後を追うように次々と自殺していったんです。自殺の原因は中田君の祟りじゃなかったんですか?」

「中田さんはちゃんと成仏されてますから、心配されるようなことはありません。でも」

龍光先生が途中で話を区切った。おれは瞬時に嫌なものを感じた。

「山下さんは自らの意志で亡くなったと言いましたけど、後の森さんと関さんは一応自殺で亡くなられたことになっていますが、この御二人は御自分の意志で亡くなられたわけではないようです」

「と言うことは事故ですか?それともやっぱり中田君の祟りで」

「いえいえ。今も説明しましたように中田さんの祟りではありません。

森さんと関さんは、山下さんにあちらの世界に引きずり込まれたようですね」

その途端、おれは言葉を失った。

そんな馬鹿な!

山下が二人をあの世に引きずり込んだなんて……。

そんなこと絶対に信じたくなかった。

これは森と関が恐れていたことだった。山下に自分たちの一生を支配されることを恐れ、殺害を考えていた二人は、恐れていたように本当に山下に一生を握られてしまったんだ。

「ああ、それと、先程化け猫の祟りがどうのこうのとおっしゃってましたが、確かに猫の怨念が山下さんの霊の周りにうろうろしているのが見えますね。中田さんは成仏されてますので猫の霊と融合して人を祟るということはありません。その点はご心配なく」

「そ、そうですか……。

ところで山下は成仏してないんですよね。だから森と関をあの世に引きずり込んだんですよね」

「ええ。山下さんは亡くなられたころの環境に異常に執着されてます。先程も言いましたが、生きてたころの状態を、亡くなられてからもずっと維持したいと強く念じられてます。

山下さんは、森さん、関さんの御二人を特別に思ってらしたようですね。勿論、白石さん、あなたに対してもその想いは同じですが」

龍光先生の何気ない付け足しはできれば聞きたくなかった。

ショックだった。

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八木商店

コメディー、ファンタジー、ミステリー、怪談といった、日常にふと現れる非日常をメインに創作小説を描いてます。 現在、来年出版の実話怪談を執筆しております。 2020年(株)平成プロジェクト主催「美濃・飛騨から世界へ! 映像企画」にて八木商店著【男神】入選。入選後、YouTube朗読で人気を博し、2023年映画化決定。2024年、八木商店著【男神】が(株)平成プロジェクトにより、愛知県日進市と、東京のスタジオにて撮影開始。いよいよ、世界に向けての映画化撮影がスタートします。どうぞ皆様からの応援よろしくお願い致します。 現在、当サイトにて掲載中の【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】は、2001年に【 菩薩(ボーディサットゥバ) あなたは行をしてますか 】のタイトルで『角川書店主催、第9回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過、その後、アレンジを加え、タイトルも【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】に改め、エブリスタ小説大賞2020『竹書房 最恐小説大賞』にて最恐長編賞、優秀作品に選ばれました。かなりの長編作品ですので、お時間ある方はお付き合いください。 また、同じく現在掲載中の【 一戸建て 】は、2004年『角川書店主催、第11回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過した作品です。

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