都市伝説

【この感動を伝えたい】 その⑮ 八木商店著

「皆んな読み終わる頃には新しい恋人と熱い仲になっていましたから。今でも本当に不思議な本だと思います。内容が内容だけに、あの物語には何か人知を超えた強い意志が働いていたのかもしれません」

「不思議な話ですね。読まれた方皆さんに素敵なお相手が見つかっただなんて」

「ええ。でもね、今思うと私が感動したのは、物語の内容にじゃなかったような気がするんですよね。確かに内容は素晴らしかったけど。生まれて初めて読破したことが嬉しかったんじゃないかな。フフフ」

「え?」

「私は勘違いであの本に出逢いました。でもこの勘違いが私の友人たちに不思議な出逢いをもたらしたんです」

「私もその本読もうかしら。今でも本屋さんに売ってますか?」

「名作だからありますよ。でも、どういうわけか私が持っていたあの本でなきゃ、効果はなかったみたいですけどね」

そう言った途端、凄まじい勢いで花田さんの膨れた顔が目の前に迫ってきた。

「ぜ、是非、その本を貸して下さいませんか!」

いくら凄い顔でせがまれても、俺は事務的に振り払うつもりでいた。

「すみません。生憎あの本は実家に家宝として大切に保管しておりましてね、私の手元にはないんです」

俺は咄嗟にでたらめなことを言った。途端に、花田さんの顔が一気に失望感に変色した。

「あの、どうしてもその御本、山路さんが持ってらした御本を私も読んでみたいのですが。何とか御借りすることはできないものでしょうか」

「残念ですが、もう大分傷んでましてね。申し訳ありませんが、本屋さんで新しいの手に入れてもらえますか」

「で、でも、山路さんがお持ちになられてる御本でなきゃ効き目がないんでしょ!」

あっ、しまった! ついつい自分の語りに酔いしれてしまい、後先の展開も考えずに本当のことを言ってしまったんだ。

「えーと、そんなこと言いましたっけ?」

とりあえず俺はとぼけてみた。それから、わざとらしく、

「あ、そう言えば、今思い出したんですけどね。確か貸し出しの順番待ちしてた友人たちの中に、何人か自分であの本を購入した者がいましたよ。彼らも皆んな言ってましたけど、読み終わる頃に彼女ができたって。だからあの本なら何でもいいみたいですね」

 

と、そこの場面まで思い出して俺は現実に戻った。

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八木商店

コメディー、ファンタジー、ミステリー、怪談といった、日常にふと現れる非日常をメインに創作小説を描いてます。 現在、来年出版の実話怪談を執筆しております。 2020年(株)平成プロジェクト主催「美濃・飛騨から世界へ! 映像企画」にて八木商店著【男神】入選。入選後、YouTube朗読で人気を博し、2023年映画化決定。2024年、八木商店著【男神】が(株)平成プロジェクトにより、愛知県日進市と、東京のスタジオにて撮影開始。いよいよ、世界に向けての映画化撮影がスタートします。どうぞ皆様からの応援よろしくお願い致します。 現在、当サイトにて掲載中の【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】は、2001年に【 菩薩(ボーディサットゥバ) あなたは行をしてますか 】のタイトルで『角川書店主催、第9回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過、その後、アレンジを加え、タイトルも【 㥯 《オン》すぐそこにある闇 】に改め、エブリスタ小説大賞2020『竹書房 最恐小説大賞』にて最恐長編賞、優秀作品に選ばれました。かなりの長編作品ですので、お時間ある方はお付き合いください。 また、同じく現在掲載中の【 一戸建て 】は、2004年『角川書店主催、第11回日本ホラー小説大賞』(長編部門)にて一次選考通過した作品です。

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